【背景】オピオイドはがん性疼痛に対して使用されるだけでなく、非がん性慢性疼痛に対しても多く使用されるようになってきている。オピオイドを使用するにあたり、便秘、悪心・嘔吐、眠気は3大副作用とされ、特に便秘、悪心・嘔吐はオピオイドの鎮痛効果発現用量よりも低用量で発現することがいわれており、オピオイドを服用する患者では高頻度に起こる副作用である。またオピオイドによる便秘は、耐性形成がほとんど起こらないとされているため、オピオイド服用中は緩下剤を継続的に投与するなどの対策が必要になることがガイドラインにも記載されている。便秘対策として、酸化マグネシウムのような浸透圧下剤やセンノシドなどの大腸刺激性下剤を上手に組み合わせて対応することが推奨されている。
【目的】内服強オピオイド鎮痛薬が新規に投与された患者を対象とし、緩下剤および制吐剤の予防投与の有用性を多施設共同研究により評価した。
【方法】4県、35施設から収集した症例を集計し、解析可能であった619症例を対象として、強オピオイド鎮痛薬が投与に際しての緩下剤および制吐剤の予防投与実施率、便秘および悪心・嘔吐の発現率を調査した。さらに、16症例以上の報告があった14施設において、予防投与有無間での便秘および悪心・嘔吐の発現率から副作用発現オッズ比(OR)を施設毎に算出し、メタ解析を行った。
【結果】全症例中、緩下剤予防投与は456例(74%)に実施され、便秘発現率は予防投与実施群では非実施群と比べて有意に低かった(34% vs. 55%)[OR=0.43, 95%信頼区間(CI)=0.300-0.622, p<0.001)。また、緩下剤の中で便秘発現のオッズを有意に低下させたのは酸化マグネシウム(1日用量1,000mg以上)のみであった。一方、制吐剤の予防投与は435例(70%)に実施されていたが、悪心・嘔吐発現率は予防投与実施群と非実施群との間で有意差はなかった。施設毎の解析では、緩下剤の予防投与実施率と便秘発現率との間には負の相関がみられた(R=-0.679, p=0.008)が、制吐剤の予防投与実施率と悪心・嘔吐発現率との間には相関は見られなかった。また、各施設における緩下剤もしくは制吐剤投与時の副作用発現のオッズ比をメタ解析した結果、緩下剤予防投与群では便秘発現オッズが有意に低かった(全体OR=0.469, 95% CI=0.231-0.955, p=0.037)が、制吐剤予防投与群では悪心・嘔吐発現オッズの有意な低下は見られなかった。
【結論】強オピオイド鎮痛薬投与に際しての緩下剤予防投与の有用性を示すエビデンスが得られ、特に、1日用量1,000mg以上の酸化マグネシウムの有用性が明らかとなった。一方、制吐剤を予防投与することの有用性を示すエビデンスは得られなかった。
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