薬剤部長挨拶

岐阜大学医学部附属病院薬剤部長
伊藤 善規
 わが国における医療従事者の数は欧米と比べるとかなり少なく、さらに最近では病院・診療所に勤務する医師の不足が大きな社会問題になっています。こういった状況において医療の質を確保するためには、これまで以上に医療従事者間の密接な連携を図る必要があります。厚生労働省は、安全かつ希望の持てる医療を確保するための方策として、各医療従事者の役割分担の見直しと医療職種間の協働を重点項目の1つに掲げ、看護師による医行為の範囲については既に検討段階に入っています。薬剤師についても、これまでの調剤や製剤を中心とした業務や病棟での薬剤管理指導業務にとどまらず、医師・歯科医師と協働でプロトコールの作成に関与し、専門的知見の活用を通じて、医師・歯科医師と協働で薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダを実施するなど、これまで以上に深くチーム医療に関わることが求められています。
 岐阜大学病院(本院)薬剤部では、2006年に救急医療チームに薬剤師2名、2008年4月には外来がん化学療法室に薬剤師2名(1名はがん専門薬剤師)、院内感染対策チームに薬剤師1名(感染制御専門薬剤師)を専任配置しています。また、本院は都道府県がん診療連携拠点病院に指定されていることから、薬剤部ではがん治療にも注力しており、抗がん剤レジメンの審査(委員長:薬剤部長)や登録、入院および外来がん患者さんへの服薬指導、抗がん剤による副作用のモニタリングや対策の立案と処方提案などに積極的に関わっています。2010年4月からは外来がん化学療法室における専任薬剤師を3名とし、全患者さんに対して治療説明、服薬指導、副作用対策を実施しています。また、2011年4月からは患者さんが来院されて採血後、診察までの時間を利用した「診察前患者面談」を行なっています。この診察前患者面談では薬剤師が患者さんの副作用発現状況をモニターし必要に応じて電子カルテに患者情報と処方提案を行なっており、患者さんや医師から好評です。
 病棟での薬剤業務は、ほとんどの場合、調剤や注射調剤などの薬剤部基本業務との併任で実施していますが、1病棟では薬剤師3名が関わり、日勤帯には薬剤師1名は必ず常駐している体制を確立し、病棟における薬剤師業務のモデルケースとなるよう取り組んでいます。
 本院は2004年に市内中心部の司町から柳戸に移転し、これに伴って電子カルテをはじめとする院内電子化が整備されました。薬剤部でも多くの業務においてIT化を進め、調剤部門では電子カルテにある患者さんの傷病名や臨床検査データを利用した処方自動鑑査システム、バーコードを利用した散剤自動分包システム、水剤処方鑑査システムなど、安全面を向上させるシステムを整備し、さらに、調剤者名や鑑査者名、疑義照会内容を電子登録することにより、将来に向けた処方箋の電子化にも対応できるシステムを構築しました。無菌製剤部門ではクリーンベンチや安全キャビネットに電子カルテと連動したコンピュータ、薬剤に貼付されているRSSコードを認証するシステムおよび電子天秤を装着し、輸液や抗がん剤を無菌調製し、鑑査する当院オリジナルのシステムを構築しました。この無菌調製システムを用いると、抗がん剤をはじめとする薬剤の自動認証をすることにより、薬剤の取り間違いを防ぐとともに、電子天秤による調製量の鑑査を行うことにより投与量の間違いを防ぐことができ、通常2人で調製作業を行うところを本院では1人で行なっています。さらに、薬学生の実務実習や卒後研修においても活用しています。薬剤管理指導部門ではカルテ情報や記録データなどを電子カルテと相互に送受信できる薬剤管理指導業務支援システム(Pharmaceutical Information and Care Support System: PICS)などITを駆使したシステムを開発しました。これによって薬物治療における安全性が格段に向上しただけではなく薬剤業務の効率化にも大きく寄与してきました。
 一方、薬剤師の仕事は今なお世間一般には十分には理解されていない状況でありますが、これは患者さんに直接関わる仕事が少ないからかもしれません。しかし、薬剤師が病院にいることによって医療の安全性が高まり、治療効果の向上や医療経済面でも貢献していることが多々あります。こういったことを数値化し論文として公表し、医師をはじめとする多職種が集まる学会等で発表すればもっと多くの人に理解してもらえるのですが、残念ながらそれがあまり出来ていないのが現状です。本院薬剤部では研究マインドを持って薬剤業務に取り組み、薬剤師の関与が医療の質向上、患者満足度の向上、医療費削減などに貢献することを数値化してまとめ、論文として公表することを目標とした「薬剤業務に基づく研究」を推進しています。最近ではその成果が得られつつあり、がんや感染の専門誌に掲載されるようになりました。実際に、2011年には「薬剤業務に基づく研究」により2名の薬剤部員が薬学博士を取得し、次年度にも2名が学位取得する予定です。
 薬剤部では「薬物治療における有効性・安全性の確保に責任をもち、専門性を活かしたチーム医療に貢献する」ことを基本理念とし、この理念のもとに注力すべき具体策を基本方針として毎年立てています。
 薬剤部では、薬物治療において患者さんの理解をいっそう深めることで治療効果を最大限に発揮するとともに副作用を最小限にとどめること、薬剤の使用を必要最小限にすることにより医療経済に貢献することを目指し、さらに後進の育成として実務実習をはじめとする教育活動にも積極的に取り組んでいます。